2025.3.28
加圧トレーニング
近年、短時間かつ低負荷で効率的なトレーニング効果が得られるとして、加圧トレーニングは多くの方に注目されています。
専用のベルトを用いて腕や脚の付け根を適切に圧迫し、血流を制限した状態で行うこのトレーニング方法は、ダイエット、筋力向上、アンチエイジングなど、多岐にわたる効果が期待されています。
もともとは加圧とトレーニングはボディビルディングの分野で開発されたものです。
しかしその応用範囲は広く、現在ではリハビリテーションやスポーツの現場でも活用されています。
その一方で、加圧トレーニングはその特性上、全ての人にとって安全なトレーニング方法とは限りません。
血流を制限するという特殊なメカニズムは、特定の健康状態にある方にとっては、予期せぬリスクを引き起こす可能性がある点に注意が必要です。
本記事では、加圧トレーニングを行うにあたって注意すべき医学的な禁忌やリスクについて詳しく解説します。
安全にトレーニングを行うための情報の提供とあなたの健康を守るために、ぜひ最後までお読みください。
タップできる目次
加圧トレーニングは、腕や脚の付け根に専用のベルトを装着し、適切な圧力を加えることで、主に静脈の血流を制限する原理に基づいています。
この静脈血流の制限により、筋肉内は一時的に酸素が不足した状態、いわゆる低酸素状態に陥り、乳酸をはじめとする代謝産物が蓄積します。
この状態は、あたかも高負荷のトレーニングを行っている時と類似した生理的反応を引き起こすとされ、結果として、比較的軽い負荷であっても、短時間で効率的な筋力トレーニング効果が得られると考えられているのです。
ちなみに加圧トレーニングは1966年に佐藤義昭氏が法事の席で正座による「足のしびれと張れ」にヒントを得て生み出されたトレーニング方法です。
また、加圧と除圧を繰り返すことで、血管の拡張と収縮機能が向上し、血行が促進されるという報告もあります。
加圧トレーニングのもう一つの重要な側面は、成長ホルモンの分泌促進です。
筋肉内に蓄積した乳酸が、脳下垂体を刺激し、成長ホルモンの分泌を促すことが知られています。
成長ホルモンは、筋肉や骨の強化、脂肪燃焼の促進、細胞の新陳代謝の活性化、そして怪我の回復を助けるなど、多岐にわたる重要な役割を担っています。
加圧トレーニングは、通常のトレーニングと比較して、より短時間で、より多くの成長ホルモン分泌を促す効果的なトレーニング方法です。
ただし、成長ホルモンには血糖値を上昇させる作用もあるため、この点には注意が必要です。
参考論文：成長ホルモンと糖代謝
特定の医学的状態にある方は、加圧トレーニングを行うことで健康を損なうリスクが高まるため、避けるべきです。
以下の表は加圧トレーニングを避けるべき症状の一覧です。
表：加圧トレーニングの医学的禁忌
| 医学的状態 | 注意すべき理由 |
| 心臓疾患 | 血流制限が心臓に過度な負担をかける可能性 |
| 高血圧 | トレーニング中に血圧が上昇するリスク |
| 血栓リスク | 血栓形成や移動のリスクを高める可能性 |
| 糖尿病 | 血糖値の急激な変動（特に低血糖）のリスク |
| 血液循環障害 | 血流制限が症状を悪化させる可能性 |
| てんかん | 生理的な変化が発作を誘発する可能性 |
| 癌 | 成長ホルモンの影響による癌細胞増殖の懸念 |
| 妊娠 | 血栓症リスクの増加と胎児への潜在的影響 |
| その他 | 急性疾患、皮膚疾患、運動器系疾患など |
以下でそれぞれを詳しく解説します。
心臓疾患を持つ方が加圧トレーニングを行う場合、いくつかの具体的なリスクが存在します。不適切な圧力での加圧は、血流を完全に遮断する可能性があり、これは心臓に過度な負担をかける原因となります。
また、加圧トレーニングは、運動と同様に心拍数や血圧を上昇させる可能性があります。
心臓の機能が低下している方や血管に問題がある方にとって、このような生理的変化は非常に危険です。
狭心症や不整脈、心不全といった疾患を持つ方は、特に注意が必要です。
ただし、研究によっては、適切な加圧と管理の下で行われる低負荷の加圧トレーニングが、心臓に大きな負担をかけずに心臓リハビリテーションに利用できる可能性も示唆されています。
しかし、これは専門の医療機関での管理下におけるものであり、自己判断で行うべきではありません。
心筋梗塞や心不全といった重篤な心臓疾患の既往がある方、現在治療中の方は、加圧トレーニングを行う前に必ず医師の許可を得る必要があります。
心臓疾患には様々な種類があり、その重症度も人によって異なります。そのため、加圧トレーニングのリスクも一概には言えません。
安定期にある心疾患患者であっても、運動強度や加圧の設定には細心の注意を払う必要があります。
医師は、個々の疾患の種類や進行度、全身状態を総合的に判断し、加圧トレーニングの可否を決定します。
自己判断は非常に危険ですので、必ず専門医の意見を聞くようにしてください。
高血圧の方が加圧トレーニングを行う際にも、注意すべきリスクがあります。
運動を行うと一般的に血圧は上昇しますが、加圧トレーニングも例外ではありません。高血圧の状態にある方がさらに血圧を上昇させることは、脳卒中や心筋梗塞といった重篤な心血管イベントのリスクを高める可能性があります。
特に、収縮期血圧が140mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上である場合は、治療を行っていない限り加圧トレーニングは禁忌とされることがあります。
その一方で、研究や専門家の間では、低負荷で行う加圧トレーニングは、高血圧患者にとっても比較的安全に行えるという意見も存在します。
加圧トレーニングは、高強度の運動と比較して血圧の上昇が穏やかであるという報告もあります。
また、適切な呼吸法を意識することで、運動中の血圧上昇をさらに抑えることができるとされています。
力を入れる際に息を止めると血圧が急激に上昇するため、運動中は呼吸を意識することが重要です。
高血圧の程度や、合併症の有無によって、加圧トレーニングの適否は異なります。
降圧薬を服用している場合でも、自己判断は避け、必ず事前に医師に相談し、指示を仰ぐようにしてください。
医師は、個々の状態を評価し、安全に加圧トレーニングを行えるかどうかを判断します。
血栓リスクのある方が加圧トレーニングを行うことは、特に慎重な判断が求められます。
血流制限は、血液が血管内で凝固しやすくなる状態を作り出す可能性があり、血栓形成のリスクを高めることが懸念されます。
特に、深部静脈血栓症（DVT）を現在発症している、または治療中の場合は、加圧トレーニングは絶対に避けるべきです。血栓が肺に移動し、肺塞栓症を引き起こす危険性があるためです。
下肢静脈瘤のある方も、加圧トレーニングによって静脈弁に負担がかかり、症状が悪化するリスクがあります。
静脈瘤は、静脈の弁機能不全により血液が逆流し、血管が拡張した状態であり、加圧による血流制限は、さらに血液の滞留を招き、症状を悪化させる可能性があります。
一方で、適切な指導の下で行われる加圧トレーニングは、血栓を作るどころか、血流を改善する可能性があるという意見も一部にあります。
しかし、これは専門家による適切な圧力設定と管理が不可欠であり、自己流で行うことは非常に危険です。
過去に血栓症の既往がある方、長期間の臥床や手術後など、血栓リスクが高い状態にある方も、加圧トレーニングを行う前に必ず医師に相談し、慎重な判断を仰ぐ必要があります。
糖尿病患者が加圧トレーニングを行う際には、血糖コントロールの変動に特に注意が必要です。
成長ホルモンは血糖値を上昇させる作用があるため、血糖コントロールが不安定な糖尿病患者の場合、加圧トレーニングによって高血糖が悪化する可能性があります。
また、インスリン注射を使用している患者の場合、加圧トレーニングによって血糖値が急激に低下し、低血糖を引き起こす危険性も指摘されています。
糖尿病による神経障害（ニューロパチー）を合併している患者は、加圧ベルトによる圧迫を感じにくい場合があり、過度な圧迫に気づかず、皮膚や神経を損傷するリスクがあるので注意が必要です。
ただし、適切な食事療法と運動療法は、糖尿病の治療において非常に重要で、管理された状態での加圧トレーニングは、血糖コントロールの改善やインスリン感受性の向上に役立つ可能性も示唆されています。
特に2型糖尿病においては、運動療法が推奨されています。しかし、1型糖尿病患者は、血糖変動のリスクが高いため、より慎重な対応が必要です。
糖尿病患者が加圧トレーニングを含む運動療法を行う際は、事前に必ず医師に相談し、個別のトレーニングプランを作成してもらうことが重要です。
運動前後や運動中の血糖値モニタリングを徹底し、低血糖に備えてブドウ糖などの補給食を準備しておく必要があります。
血液循環障害のある方が加圧トレーニングを行う場合、そのリスクは非常に高くなります。
動脈硬化や閉塞性動脈硬化症、末梢動脈疾患など、血管が狭くなっていたり、血流が滞りやすい状態にある人は、加圧によってさらに血流が悪化し、症状が悪化する可能性があります。
特に重度の血行障害がある場合は、加圧トレーニングは禁忌とされているので気をつけてください。
加圧ベルトの締め付けすぎは、健康な人であっても血行障害を引き起こす可能性がありますが、既に血行に問題がある人にとっては、より深刻な事態を招く可能性があります。
また、静脈瘤のある方も、加圧トレーニングによって静脈弁に過度な負担がかかり、症状が悪化するリスクがあるため注意が必要です。
血液循環障害には様々な種類と程度があり、自己判断で加圧トレーニングを行うことは非常に危険です。
どのような種類の血液循環障害があるか、その程度はどのくらいかなどを正確に把握し、必ず医師に相談し、許可を得てから行うようにしてください。
軽度の血行障害であっても、トレーニング中に痛みやしびれ、冷感などの異常を感じた場合は、直ちにトレーニングを中止することが重要です。
てんかんをお持ちの方が加圧トレーニングを行う場合、いくつかの注意点があります。一般的に、適度な運動はてんかん発作の抑制に良い影響を与えると考えられていますが、過度な運動や疲労は、発作の誘因となる可能性も否定できません。
加圧トレーニングは、血流制限や成長ホルモン分泌といった生理的な変化を伴うため、これらの変化が発作にどのような影響を与えるかは、個人によって異なる可能性があります。
発作の種類や頻度によっては、運動自体が制限される場合もあります。
もし運動中に発作が起きた場合、転倒や器具の落下などによる怪我のリスクも考えられます。
そのため、てんかんをお持ちの方が加圧トレーニングを含む運動療法を行う際は、必ず事前に医師に相談し、安全に配慮した上で行う必要があります。
発作が完全にコントロールされている場合でも、運動の種類や強度には注意が必要です。
また、トレーニングを行う際は、万が一発作が起きた場合に備えて、周囲の人に自身の状態を理解してもらい、サポートを受けられる体制を整えておくことが望ましいでしょう。
癌の方が加圧トレーニングを行うことに関しては、現時点では明確なリスクを示すエビデンスは乏しいとされています。
むしろ、適度な運動療法は、癌患者の体力維持、QOL（生活の質）の向上、そして生存率の向上に寄与する可能性が示唆されており、加圧トレーニングもその選択肢の一つとして考えられることがあります。
その一方で、癌の種類、進行度、治療段階によって、運動療法のリスクとメリットは大きく異なるため、自己判断で行うことは危険です。必ず事前に主治医に相談し、運動療法の可否や注意点について指示を仰ぐ必要があります。
特に、免疫抑制状態にある場合や、特定の抗がん剤治療を受けている場合、骨転移がある場合などは、運動療法に際して特別な注意が必要となることがあります。
また、乳がん治療後のリンパ浮腫のリスクがある方など、特定の癌患者には加圧トレーニングが適さない場合もあります。
医師は、患者の個々の状態を詳細に評価し、最も適切な運動療法を提案するので指示に従いましょう。
妊娠中の女性が加圧トレーニングを行うことは、一般的に推奨されていません。
妊娠中は、ホルモンバランスが大きく変化し、血液循環も通常とは異なる状態にあります。
加圧トレーニングによる血流制限やホルモン分泌の変動が、母体や胎児に予期せぬ影響を与える可能性は否定できません。
特に妊娠初期や体調が不安定な時期は避けるべきです。
安定期に入り、医師から運動の許可が得られた場合でも、加圧トレーニングは体に負担がかかる可能性があるため、無理のない範囲で行う必要があります。
多くの加圧トレーニング施設では、流産のリスクや母体への過度な負担を避けるため、妊娠中の女性へのトレーニングを禁忌としている場合が多いです。
妊娠中の運動は、種類や強度、時期によって安全性が大きく異なるため、自己判断は非常に危険です。
運動を検討する際は、必ず産婦人科医に相談し、安全な運動方法や注意点について指導を受けてください。
産後の加圧トレーニングについても、体調が完全に回復し、医師の許可を得てから開始するようにしましょう。
上記以外にも、以下のような状態にある場合は、加圧トレーニングを行うべきではありません。
医学的な禁忌に該当しない方でも、加圧トレーニングにはいくつかの一般的なリスクとデメリットが存在します。
これは点状出血と呼ばれるもので、毛細血管に一時的に血液が過剰に流れ込むことで起こると考えられています。通常は数日で自然に消えますが、見た目が気になる場合はトレーナーに相談すると良いでしょう。
特に貧血体質の方や低血圧の方は注意が必要です。トレーニング中に気分が悪くなった場合は、すぐに中止し、休息するようにしてください。
多くの場合、トレーニングを継続することで徐々に軽減されます。
必ず専門の資格を持ったトレーナーの指導を受けるようにしてください。KAATAU JAPANの認定資格を取得したトレーナーは一定の基準をクリアしています。
適切な指導の下で行うことで、このリスクを最小限に抑えることができます。
加圧トレーニングを安全に行うために、以下の項目に該当するかどうかを確認しましょう。
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上記の項目に一つでも該当する場合は、加圧トレーニングを開始する前に必ず医師に相談してください。
加圧トレーニングは、その特殊なメカニズムから、自己判断で行うことは危険を伴います。
特に、何らかの持病のある方や、体調に不安がある方は、必ず事前に医師に相談し、加圧トレーニングを行っても問題ないか、注意すべき点はないかなどを確認することが非常に重要です。
担当医師は、あなたの健康状態や既往歴を詳しく把握しており、加圧トレーニングが適切かどうかを医学的な観点から判断することができます。
自己判断で加圧トレーニングを行い、もしものことがあってからでは遅すぎます。安全に加圧トレーニングを行うためには、医師の許可を得ることが最も重要な第一歩と言えるでしょう。
加圧トレーニングは、適切に行えば、効率的に筋力アップやダイエットなどの効果が期待できる魅力的なトレーニング方法です。
しかし、その効果を最大限に引き出し、安全に取り組むためには、加圧トレーニングが全ての人に適しているわけではないことを理解しておく必要があります。
本稿で解説した医学的禁忌やリスクを十分に理解し、ご自身の健康状態を慎重に評価することが重要です。安全に加圧トレーニングを行うためには、以下のポイントを必ず守ってください。
これらの注意点を守り、安全に加圧トレーニングを活用することで、健康的な体づくりを目指しましょう。
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